こんにちは。山野です。イノーバでマーケティング部の責任者をしています。
今日はタイトルの通り「見込み顧客の行動はコントロール可能なのか?」というテーマで書きたいと思います。
見込み顧客の行動を「コントロール可能」と勘違いしてませんか?
BtoBマーケティングの施策の話をしていると、以下のような発言が飛び交うことがあります。
- ステップメールを配信してリードの興味関心を高める
- リターゲティング広告によって接触頻度を高めサービスに興味を持ってもらう
- インサイドセールスが見込みの高いリードに電話をすることで商談を設定する
いずれも、メールや電話をする、あるいは広告を使うことによって成果を出そうという施策の話です。マーケティングの施策の話としておかしい点は無いように映ります。
しかし、(これは私個人の意見ですが、)これらの施策の実行を通して、「見込み顧客の購買意欲が増す」とは到底思えません。例えば、私のメールボックスには毎日数十件のメルマガが届きますが、メルマガを見て購買意欲が高まったことは一度もありません。
ナーチャリングされずとも、ニーズは勝手に育つ
昨年、イノーバは Salesforce Pardot を導入しました。しかし、これといって Salesforce 社からナーチャリングをされていた訳ではなく、あるタイミングで「データ管理を効率化したい」「 MA 運用支援をサービス化するので海外産の MA を触っておきたい」という社内ニーズが重なったため、急に Pardot の導入検討が始まったのです。
このように、発注側の社内事情はナーチャリングによってコントロールできる類のものではありませんから、企業のメルマガ配信やインサイドセールスによって購買意欲が高まるということはなく、「ニーズは勝手に育つ、あるいは突然現れる」ものだと思った方が実態に近いかもしれません。
先の話に戻りますが、ステップメールの送信やインサイドセールスが電話をすることで「見込み顧客の購買意欲が増す」ということは起こりづらいのでは、というのが私の仮説です。
カスタマージャーニー作成によって「見込み顧客の行動をコントロール可能」という思い込みが強くなる
BtoB マーケティングにおいてカスタマージャーニーを書くというのは一般的な行為ですが、カスタマージャーニーの作成を通して「企業が顧客の行動をコントロール可能と思ってしまう」、誤った刷り込みがされてしまうのでは?と考えています。
例えば以下の図です。
当初は無関心だった人が、自社の課題を意識し情報収集を始め、課題を解消するためのベンダーを数社見繕い、比較検討した後に発注する。そのような一連の流れが左から右に「一直線」に描かれています。
このようなジャーニーを前にすると、
- 情報収集層の人を比較検討プロセスに移行させよう
- 比較検討層の人に自社の魅力を伝えて購買プロセスに移行させよう
というように、あたかも企業が顧客をコントロールできる前提で顧客の購買行動を考えてしまいがちです。
ただし、先程申し上げた通り、自分が見込み顧客の立場になって考えると、シナリオメールが届いたら購買意欲が増すかと言うと全然そんなことはありません。電話でナーチャリングされたから購入を検討するか?と言うとこれもそんなことはないわけです。
(どちらかというと「押し売りのメールがたくさん届いて嫌だな」と思わせてしまうなど、逆効果になるケースもあるのではと思います)
※もちろん、顧客の購買行動に購買プロセスことがあることは事実です。ですのでジャーニーマップのように購買行動を簡略化することで、購買プロセス別の顧客理解を深めることは良い取り組みです。ただし、ジャーニーマップを左から右に順に移行するかというとそうではないケースが多いのでは?ということです。
本来、顧客の購買行動の実態は複雑
ここでガートナーが提唱するバイヤージャーニーをご紹介したいと思います。
様々な要素が書かれているので詳細な説明は割愛しますが、バイイングジャーニーという名前の通り、左上に購買活動のスタートがあり右下に購買活動の意思決定( Purchase decision )があるように購買行動の一連の流れを示しています。
オレンジのボックスは顧客の主要な購買行動を示しています。
左から、問題を認識する、解決方法を幅広く模索する、要件を定義する、ベンダーを選定する、ということで、先程ご紹介したカスタマージャーニーと同じような事が描かれているわけですが、オレンジのボックスの外に書かれているたくさんのキーワードや矢印に注目していただきたいと思います。
例えばCEOターンオーバーです。
情報収集をして要件を定義したり購買プロセスを進めていたが、社長の「それではだめだ」という発言で、購買行動がやり直しになるといったことが描かれています。
この図の中には社長の他にも、購買を進めるオーナー、エンドユーザー、あるいは外部の専門家にアドバイスを仰ぐなど、多くのステークホルダーが登場します。
何を伝えたいかというと、多くのステークホルダーが登場しそれぞれが相互に影響するので、購買活動は複雑度が高いということです。「リードにステップメールを送ったらそれで買ってもらえる」といったシンプルな世界ではないのです。
顧客を能動的と捉えることが重要
ここまで、BtoB 企業の購買行動は複雑だから、ステップメールの送信やインサイドセールスが電話をするだけでは「見込み顧客の購買意欲が増す」ということは起こりづらい、ということを書きました。
「見込み顧客の行動を完全にはコントロールできない」は「顧客は能動的である」と言い換えることができます。顧客を能動的と捉えることは、昨今のインバウンドマーケティングやコンテンツマーケティングの考え方とフィットします。これらは「顧客に見つけてもらう/自社を選んでもらう」取り組みであり、「顧客は自分の考えを持ち、自分の意思で行動する」という前提が含まれているからです。
インバウンドマーケティングやコンテンツマーケティングが浸透したと言われる時代ですが、実際は「企業側で顧客をコントロールできる」といった思い込みや勘違いをしたまま、実態としてはプッシュ型のマーケティングをしている企業は意外と多く存在しますので、注意が必要です。
見込み顧客の購買行動をコントロールできない前提で、企業側で出来ること
「企業側が顧客の行動をコントロールできない」と書きましたが、ただし、当然、購買担当者が自社の課題を解消するにあたって、情報収集・比較検討することは実態として発生します。
そのような購買活動が発生するタイミングや、どのように行われるか?を見極め、必要な情報を伝えるようにコンテンツを作っておく。あるいは、適切なタイミングでコミュニケーションすることで、企業側が購買担当者やステークホルダーに積極的に関わり、購買行動を自社優位に進めることは取り組みの余地があることは、念の為申し上げます。
(見込み顧客やその購買行動の洞察を十分に行わず、ただステップメールやインサイドセールスという施策だけを展開するだけでは、見込み顧客の行動は変えられないし、成果も上がらない、というのが主張です)
集客からナーチャリングが左から右、上から下に一つのメディアでストレートに、短期に進むことは必ずしも期待はできませんが、社内事情でニーズが突発的に生まれるケースがありますし、他のメディアや書籍等の自社以外のコンテンツに触れナーチャリングステージが進んだ担当者の方が自社サイトに再訪することもあります。そうした際、その担当者の情報ニーズに対応したコンテンツの受け皿は準備しておきましょう。そうすることで、「コントロール可能」とまでは言わないが、購買行動の自然な促進は可能になるはずです。複数のステークホルダー、異なるナーチャリングステージにいる読者を意識してコンテンツの受け皿を準備しておくことが、マーケティング促しの肝になります。
完全にコントロール不可能といっても、見込み顧客の購買行動に自社に取って良い影響を与えることは出来るので、見込み顧客は何に悩むのか?それはどうすれば自社が解決可能なのか?を突き詰めましょう、という結論的にはマーケティングの基本の話になってしまいました。今日は以上です。