なぜリードナーチャリングは上手くいかないのか

アイキャッチ_なぜリードナーチャリングは上手くいかないのか?

こんにちは。イノーバでマーケティング部の責任者をしている山野と申します。

今日のテーマはリードナーチャリングです。BtoB の商材は BtoC のそれと違って「欲しくなったら即買う」ものではないですから、中長期的にコミュニケーションを取ることで「自社を覚えてもらう」とか、「購入意向が高まるタイミングを逃さない」ということを目的にリードナーチャリングを重要視する企業が多いのではと思います。

イノーバもリードナーチャリングを大事と思っていて、日々取り組んでいます。

弊社のハウスリストの内訳を以下図で大まかに分類しましたが、図のオレンジの部分(ナーチャリング対象)は割合として大きいので、ここを上手に取り組めば大きなインパクトを見込める、ということでリードナーチャリングを重要視しています。

リードナーチャリングの難しさ

リードナーチャリングの対象数は多いので、上手に取り組めば大きな成果が出せるということで非常に重要な訳ですが、世の中を見渡すと成功例はさほど多くありません。というより、失敗するケースの方が多いのでは?と思います。

以下は一般的なリードナーチャリングの手法です。

  • ステップメール
  • セグメントメール
  • スコアリング
  • コール
  • DM
  • ウェビナー

中でも、マーケティングオートメーション(以下、MA )を使ってステップメールを送る、インサイドセールスがリードへ電話する、といった手法がナーチャリングの代表的手法として語られることが多いです。

 

しかし、これらの手法を鵜呑みにして実行したらどうなるかというと、正直、あまり効き目がありません。失敗する可能性が高いです。

弊社も Salesforce Pardot を導入し様々取り組みましたが、複雑なシナリオを組んでステップメールを送って大きなインパクトがあるかというとそうではありませんし、スコアの高い方にインサイドセールスが電話しても、突然かかってきた電話に快く受け答えしてくれる方は極少数です。

 

率直に言うと、ナーチャリングの一般的な手法をそのまま実行すると、効き目が薄いどころか、「この会社のメルマガは鬱陶しい」「忙しいのに売り込みの電話をかけてきた」ということでマイナスの側面の方が大きく出てしまうということで、リスクの方が大きいと思います。

以下はスターティアラボ様の「BtoBマーケティングオートメーション意識調査」の「MAで使いこなせないと思う機能」について回答結果をまとめたものです。

MAを難しい(使いこなせない)と感じる機能はなんですか?

https://mtame.jp/marketing_foundation/marketing_automation_research_2017/ から引用

スコアリングやシナリオ設計・メール機能など、いわゆる「ナーチャリング」を目的に使う機能が「使いこなせない機能」のトップにランクインしてしまっています。これは 2020 年の調査結果ですが、マーケティングオートメーションが流行り始めた 2014 年から同様の結果ですし、おそらく今後数年も同じ結果が出るはずです。

リードナーチャリングが重要な一方で、具体的に効果のある方法を見つけられていない、というのがBtoB マーケティングの実態と言えるでしょう。

リードナーチャリング”される”立場をイメージする

先程、効果が薄いと申し上げた「マーケティングオートメーションを使ってステップメールを送る」「インサイドセールスがリードへ電話する」という施策を受ける側、自分がナーチャリングされる側という立場をイメージしてみてください。

以下図の左側に示していますが、「別に欲しくもないのにメールがたくさん届く」「忙しいのに電話がかかってくる」ということで、結構ストレスに感じるのでは、と思います。

購買担当者は自身のペースで、”今”必要な情報を求めている

普段、我々は忙しいので、出来れば上手に情報収集・比較検討したいという思いがあります。例えば私だったら検討が進んでない状態で「電話で説明聞くなんて時間が勿体ない」と思います。可能なら資料だけ見てサクッと理解したいですし、自分のペースで情報収集したいという気持ちが強い。

上図の右側に書いてますが、「必要な情報を必要なときに自分のペースで情報収集したい」と思うのが現代人の本音じゃないでしょうか。(なので、右側をあるべき姿と書いています)

ただ、現状、日本のリードナーチャリングというのは左側のことをしてしまっていると思います。だから当然上手くいかない訳です。

 

ここからは上手の左側にも書いた「押し売り的なリードナーチャリング」から脱却して、右側の状態に移行していこう、というのを具体的な手法としてご紹介いたします。

押し売り的なリードナーチャリングに代わるバイヤーイネーブルメントという考え方

押し売り的な「リードナーチャリング」に代わって、マーケティングが進んでいるアメリカでは「バイヤーイネーブルメント」という考え方が生まれているのでご紹介します。

(厳密にはリードナーチャリングに代わって生まれた考え方ではありませんが、リードナーチャリングと比較すると分かりやすいので、そのように説明します)

バイヤーイネーブルメントという考え方の表出

バイヤーイネーブルメントとは、とても簡単に説明するとBuyer(購買担当者の、購買活動を)、Enable(容易にする)ということで、「BtoBの購買担当者の購買活動を今よりもっと簡単にしてあげよう」という考え方です。

 

先程の図を再掲しますが、左の押し売り的なリードナーチャリングを受けている購買担当の方の購買活動というのは「簡単・スムーズ」な印象は受けませんよね。欲しくもないのにたくさんメールが届く、欲しくもないのにたくさん電話がかかってくる、ということで、結構ストレスを与えてしまっています。

購買担当者は自身のペースで、”今”必要な情報を求めている

一方、右側は左側と比べると、購買担当者がスムーズに購買を進められている印象を受けるんじゃないでしょうか。

分かりやすいように、リードナーチャリングとバイヤーイネーブルメントを比較しました。

リードナーチャリングとバイヤーイネーブルメントの違い

リードナーチャリングは「企業が」「マーケティングチームが」「インサイドセールスが」というように、企業側が主語になってしまっていて、「顧客側がどう感じるか?」の視点がスッポリと抜け落ちているのが分かります。

一方、バイヤーイネーブルメントは「購買担当者が〜」ということで、顧客側が主語になっています。

バイヤーイネーブルメントという言葉の台頭は「購買活動は企業ではなく、(当然)顧客側が主体になって進めるものだ」という認識の変更を迫っているように思います。

具体的なバイヤーイネーブルメントの取り組み方法

バイヤーイネーブルメントはまだ新しい考え方のため、具体的に何をすればバイヤーイネーブルメントになるのか?というのは決まった正解がある訳ではありません。イノーバのマーケティングチームもバイヤーイネーブルメントの正解を手探りで模索している真っ最中ですが、弊社が辿り着いた一つのアプローチについてご紹介したいと思います。

購買の検討度合いに応じてコンテンツを充実させる

購買担当者は自身のペースで、”今”必要な情報を求めている

繰り返しになりますが、右側の状態「購買担当者は必要な情報を必要なときに自分のペースで情報収集できる」という状態を実現するために、購買担当者の方が求める情報を不足なくサイト上に掲載しておく、というのがバイヤーイネーブルメントな状態を作る一つのアプローチだと考えています。

具体的には以下のようになります。

検討プロセスに応じて、コンテンツを充実させていく

このとき、重要なことは購買の検討度合いに応じてコンテンツを用意しておくことです。

一般的に、BtoB商材は高額で意思決定に時間がかかるものですから、「検討度合い」というものが存在します。「まだ個人的に情報収集している」とか「上司から命を受けて今週中にベンダー候補を見繕う必要がある」といったものです。そして、検討度合いによって求める情報も異なります。

「上司から命を受けて今週中にベンダー候補を見繕う必要がある」という方であれば、ベンダー企業の「サービス情報ページ」「事例ページ」を見たいでしょうし、必要に応じて「資料請求」するかもしれません。

一方で、「まだ個人的に情報収集している」段階の方であれば、まだ「資料請求」は不要でしょう。「サービス情報ページ」もそこまで熱心に見ないはずです。情報の質としてはライトな、例えばブログ記事やホワイトペーパーといったコンテンツを見たい、という方が多いでしょう。

このように、検討度合いに応じたコンテンツを用意しておくことで、購買担当者の方が必要なときに情報収集できるようにしておく、というのがイノーバの一つのバイヤーイネーブルメントに対する解としています。

 

少し脱線しますが、検討度合いに応じてコンテンツが用意されている(バイヤーイネーブルメントな)状態になると、MA を使いやすくなります。

「 MA でステップメール送るだけではリードナーチャリングにはならない」というのは申し上げた通りですが、個々の検討度合いを把握した上で、所持しているコンテンツの中から最適なものを配信する、というのは喜ばれます。

当然の話ですが、見込み顧客は「 MA を入れてる会社からものを買いたい」と思ってるわけではありません。「この会社は自分に必要な情報を分かってくれている。しかも適切なタイミングで情報を送ってくれて、コミュニケーションが心地いいぞ」と思ってもらうために MA は存在しますから、手段が目的にならないように気をつけないといけませんね。

まとめ

この記事で伝えたいことをまとめると以下の通りです。

  • リードナーチャリングを重要と思う企業は多い一方、上手に取り組めている企業は少ない(ただステップメールを送るだけ、ただ古い名刺に電話するだけ、では当然上手く行かない)
  • リードナーチャリングされる立場をイメージすると、押し売り的なメールや電話をされることで購買意欲が高まるということはない
  • 当然、購買行動は顧客主体なので、リードナーチャリングに代わって「バイヤーイネーブルメント」という考え方が浸透するべき
  • バイヤーイネーブルメントの一つのアプローチとして「検討度合いに応じてコンテンツを用意しておく」ことはイノーバがたどり着いた解のひとつ

リードナーチャリングは新しい考え方といいますか、経験のある企業が少ないので、どうしても手法先行で情報が浸透してしまいます。今日の投稿で繰り返し挙げたステップメールやインサイドセールスが電話する、といったものがそうですね。

しかし、そうした手法をただ実行するだけで上手くいく訳ではありません。「ステップメールを送ることで顧客側はどう思うのか?」「唐突にインサイドセールスから電話されることでどう思われるか?」ということを自問し、「どんなときに、どのようなコミュニケーションを取ると心地いいだろうか?」ということにまっすぐに向き合うことが真のリードナーチャリングの出発点になると思います。